まずは、順調な滑り出しを見せている今年のNHK大河「義経」。しかし、ドラマ化という過程にあって、史実と異なる部分が出てくるのは、避けようのない事実です。
例えば、今回の柱の一つでもある幼少時の牛若と清盛の交流――。これを描くために、清盛と常盤の関係が5年にも及び、しかもその間、正妻の時子がまるでその事実を知らずにいたという、かなり嘘臭い設定になっていましたよね《史実では、義経5歳(実質3〜4歳)の1163年に、常盤は長成の子能成を生んでいるので、二人の関係はせいぜい1〜2年のことだったと推測される》。
もっとも、時子うんぬんについては、もう少し大人の対処をするよう描けたはずですし、その方がドラマ的にもよかったように思えますが……(妙に嫉妬深い時子様というのもね……)。
とまあ、万事がこんな調子で、歴史を描く小説やドラマでは、史実無視・捏造などは日常茶飯。むしろ、それを承知で、楽しめるものを望むというのが、読者・視聴者側の心理でもあります。
ところが、「ここまで無茶苦茶なものは、未だかつてお目にかかったことがない…」という、それはもうトンデモないドラマが、実は存在したりします。
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タイトルはズバリ『平清盛』。主演の清盛役は、今や時の人の松平健さんで、放映は1992年と言いますから、今から10年以上も前。TBS系でお正月恒例の大型時代劇として、恐らく2夜連続か何かだったのでしょう。ビデオでは2巻組、計4時間近いかなりの大作物です。
清盛が主人公とくれば、さぞかし、平家を堪能できるだろうと期待して見たのですが……。前編の終盤でようやく「保元の乱」が始まる!という、非常にトロ〜い展開。しかも、その「保元の乱」自体が、「いったいどこの星の事件じゃ???」とツッコミを入れずにはいられない、それはもう、笑いなくしては見れない代物なのでございます。(^_^;)
「保元の乱」といえば、どなた様も、小学校の教科書などで、当事者達を図式したものを、一度は目にしたことがあるかと思います。
後白河天皇 |
vs |
崇徳上皇 |
藤原忠通 |
vs |
藤原頼長 |
平 清 盛 |
vs |
平 忠 正 |
源 義 朝 |
vs |
源 為 義 |
しか〜し! このドラマでは、まず、藤原忠通は登場しません(忠実パパは一応出てきますが、影が薄くて、頼長とはとても父子とは思えない年齢差<頼長がフケ過ぎか?)。そして、後白河天皇も、この時点では、まだ、影も形もなし。というか、乱勃発時の天皇が、まだ、崇徳さんでして……(~_~;)
では、どうして乱が起こるのか……。手っ取り早く言えば、鳥羽法皇(松方弘樹)の寵妃美福門院(十朱幸代)が、病に倒れた法皇の平癒の祈祷のため熊野へ参詣し、帰洛するや、熊野権現の託宣があったと(出た〜! 伝家の宝刀?)、実子体仁親王(これがまだ4〜5歳の幼児)の天皇践祚を宣言したことから、一気に内乱に突入という、えらい強引な筋書き。
それにしても、天皇に反旗を翻し、帝位を奪おうという美福門院(まさに傾国の美女?)、その彼女に一目置かれ、加勢する清盛と、これだけでも、そのキッチュな設定に十分驚かされますが、他にも、待賢門院(二宮さよ子)と頼長(神山繁)が不倫の仲などという、おっとろしいシチュエーションまで用意されていて、もう何ともはや……(ため息)。
後編に入っても、この奇怪な電波は衰えを見せず、頼長邸に乗り込んだ鎧姿も凛々しい松平清盛様(実は鎧を着込んだ新さん?)は、見事な殺陣で敵をバッサバッサと斬り捨て、挙句に、頼長当人も自らの手で成敗しちゃいます(やっぱり、上様にしか見えないよ〜)。
そして、この「保元の乱」とおぼしき争乱がおさまった所で、平家のゴッドファーザー忠盛(丹波哲郎)がご臨終。
「ええーっ!」という声も聞こえてきそうですが、忠盛さん、ここまでご存命だったのですよ(笑)。保元の乱の際も「いかがする!」と清盛に迫ったりして……(^_^;)
おかげで、池禅尼(草笛光子)の「ひしと兄の清盛につきてあれ〜」(by 愚管抄)なんて場面はもちろんありません(第一、頼盛のみならず、清盛の兄弟は全く登場しませんから)。でも、そのくせ、忠盛の死去を告げるナレーションは「仁平3年」と史実通り。和暦なら、誰も気づかないと思ったのでしょうけど、別にわざわざ入れる必要もないのにね……(もちろん「仁平」は「保元」よりも前ですよ)。
まあ、そういう細かいツッコミはキリがないので置いておくとして、ここまで話が進んで、ようやく、四宮雅仁=後白河(高橋英樹)さんのご登場。それも、颯爽と馬を駆って現れるや(ヨーッ! 桃太郎侍!?)、帝が死んだので(どうやら近衛天皇のことらしい)、自分が帝位に就くことになったと、わざわざ清盛にご報告。
と、ここから話は次なる「平治の乱」へと向かうわけですが、これがまた……、ワケワカメな展開……(ため息)。
後白河帝の悪魔の囁きと悪源太義平(西村和彦)の暴走によって、義朝(夏八木勲)が決起せざるをえなくなったという新説(?)を採用。そう、つまりここでも、史実では元凶とされる藤原信頼 は登場せず、その存在自体が、完全に無視されています(信西はかろうじて出てきますが、義平に赤っ恥をかかされたりと、“黒衣の宰相”の名も泣く小者扱い)
紀州路のどこか?を決戦の地として、義平も義朝も、清盛の目前で壮絶な最期を遂げ(雪の竜華越えもなし。というか、12月とナレーションも断言しているのに、画面を彩るくっきり紅葉って……)、義朝の亡骸の退場(?)には、御丁寧にも、追撃をやめさせ、礼をもって見送る清盛さん(お〜い、敵の大将だよ。首を捕らんでいいのかい?)。
都に帰還したらしたで、常盤御前(岩下志麻)に凄まれるわ、説教されるわと、完全に迫力負けだし(この二人が居並ぶと、思わず「姉上!」の台詞が聞こえてきそう〜♪ by『草燃える』)、その後も、高倉天皇(坂上忍)の御子を宿した小督(中野みゆき)に、身を引いてくれと頭を下げたりと、やたら、いい人(?) 仕様の清盛というのも、なんだかつらいものがあります。
でもって、その小督についても、桜町中納言成範の娘ではなく、藤原信元(長門裕之)とかいう下級公家の娘という設定(陸奥守に任じられて大喜びしてたからね〜♪)になっていて、おまけに、高倉帝と小督の恋愛を知った後白河院となぜか尼姿の建春門院(加納みゆき)は、悪巧み風にほくそえんでいたりして……(そういや、俊寛さんに東国の源氏の動静を探って来い!とか命じていたっけ?)。
だんだん“奇怪”を数え上げるのにも疲れてきましたが(笑)、後もう少しお付き合いいだたくとして、“入道相国”の異名で知られる平清盛。にも関わらず、大病も出家もしないまま、徳子入内のシーンでも、妻の時子(かたせ梨乃)共々、華やかな正装姿を披露。
さらに、鹿ノ谷事件へと進み(これまた、現行犯逮捕的な捕物が笑える)、ついに、後白河院との因縁に決着をつけるべく対面!という段になって、これ見よがしに頭を丸めてご登場。(しかし、この場面の二人のやりとりは、マジメな話、本作品中、屈指の出来栄えかと……)。
清盛の必死の説得(?)の甲斐あってか、後白河院は寝たふりを決め込んで大人しくなり、ようやく福原遷都も実現にこぎつけた…という
所で、清盛が発病(この時点でも時子さんはまだ二位尼になってない)、そして、安徳天皇誕生があって、生まれたばかりの安徳さんを伴い福原へ遷幸という所、ジ・エンド(「御子を泣かせてはならぬ!」と清盛が絶叫していたので、まだ安徳天皇即位前らしい)
しかし、“頼朝挙兵”も“あっち死に”もなしという、えらい中途半端な終わり方も、この稀有なる“完全オリジナルドラマ(?)”にふさわしい結末と言うべきでしょうか?
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思うに、このドラマの破綻の原因(史実無視などは別にして)も、いろいろと考えられますが(そんなもん考えるな!)、一番の元凶は、無茶なペース配分、これに尽きます。
保元の乱以前に多くの時間を割き過ぎで、それも、ここまで触れずにきましたが、ヒロイン格の厳島の巫女阿矢御前(名取裕子)を後編にまで出したい……、その一念だけだったのではないかという疑い。
おかげで、あまりに詰め込みすぎ、端折りすぎの後編は、それこそ、メモをとりながらでないと、頭がこんがらがってきてしまうといった具合ですから……。
しか〜し! ここまで散々けなしてばかりですが、こう書きながらも、実は、このドラマ、意外に気に入っていたりするんですよね。
やっぱり、待賢門院や美福門院といった、中々映像になりにくい人物(特に女性)が登場するというだけでも、どこか、嬉しい気持ちもあったりして……(美福門院様なんて、まさに、はまり役!)。それだけに、もう少しまともな筋書きであれば……と思う気持ちも強かったりします。
まあ、何はともあれ、この長大な作品を最後まで見切るのも一苦労ですが、一方で、これに耐えられれば、「大抵の史実無視は大目に見られる」ようになるという、皮肉な副産物もあります(ここは逆転の発想で!)。それに「あなたはいくつ間違いを見つけられますか?」的な楽しみ方もまた一興ですし……。
ただ、全く日本史に免疫(?)のない方には、とてもお薦めできません。こんなデタラメを頭に刷り込まれた日には、それこそ、悲劇以外の何物でもありませんから。そこの所は、どうぞお気をつけ下さいませ。
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ところで、なぜに、今頃、こんなものを書く気になったか……(10年以上も前の作品をわざわざ引っ張り出して来て)。
実はこの作品、ごく最近、何と!? DVD化 されたらしいのですよ。(~_~;)
大河「義経」にあやかっての便乗商法ミエミエですが、思わず、手を出してしまう方も多いのではないかとも予想され、警告の意味でも、急遽、取り上げることに致しました。
実際、大河とかぶるキャストあり〜の、それなりに豪華で、押し出しの強い顔ぶれが揃った、その非常に“濃ゆ〜い”世界に、一見の価値もありと認めはしますが、にしても、そこそこの値段(定価 6,930円也)はしますし、後で後悔しない為にも、ともかく、衝動買いは控えられ、まずは、レンタルを利用されることを強くお薦め致します(こんなこと書くと営業妨害で訴えられるかな?)
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