保元の乱の戦後処理
 
   
   後白河天皇方の勝利で幕を閉じた保元の乱、その敗者の処分は苛烈極まりないものでした。   
    
 まず、仁和寺において拘束された崇徳上皇は、讃岐国(香川県)への配流に。   
 乱の張本人とはいえ、既に出家を果たし、また上皇という高貴な身分も考慮するなら、京都周辺のどこかに幽閉されるぐらいに留められるものと思われたのが、流罪という予想外に厳しい処断が下されたのでした。   
 讃岐に渡った上皇は、ひたすら京への帰還を願い、しかし、果たされることのないまま、8年後に配所において死を迎えることになります。   
 絶望のうちに世を去った上皇の魂は、やがて怨霊となり、世の中に多くの天災・人災をもたらすようになります。   
 その怨念の深さは、天神様―菅原道真―と並び評されるほどであったとも言います。   
 おかげで、以後、天災が続いたり、良からぬことが起きる度に、讃岐院(崇徳上皇)のたたりだと怖れ、その調伏に努めることになります。   
    
 一方、摂関家の方は、第一級戦犯の頼長が逃亡中に不慮の死を遂げましたが、父親の忠実は、合戦の報を聞くや、宇治を離れ奈良に逃がれていました。   
 藤原氏の氏寺である興福寺は、忠実の勢力下にあり、その僧兵の力を動員しようとしたとも言われています。   
 ところが、上皇方惨敗の報に続き、重傷を負った頼長が、瀕死の状態で奈良を目指し、父忠実に助けを求めて来るに至って、ようやく敗北を悟ったのでしょう、今度は自らに責が及ぶことを恐れ、対面すら許さず、頼長を見捨てる道を選びます。   
 衝撃の絶縁宣言を申し渡された頼長は、生きる気力も失せ果て、自ら舌を噛み切り、命を絶ったという逸話が残されています。   
 それにしても、何という親でしょう。散々猫可愛がりしておきながら、肝心な所では己の保身のみを考えて冷たく突き放す……、そのあまりの無責任ぶりには、呆れるのを通り越して、怒りすら覚えます。   
 もし、忠実に人並みの分別があり、摂関家の次男という立場に生まれた頼長に、彼の身の丈に合った人生を歩ませていれば、今回の悲劇は防げたはずでした。   
 結局、忠実は謀反人の烙印を押されたまま、洛北にある知足院に幽閉の身となります。崇徳上皇と異なり流罪を免れたのは、忠通の嘆願によるものと、79歳という高齢であったことが主な理由に上げられ、6年の幽閉生活の後に死去します。   
    
 その他の処分としては、崇徳上皇の子重仁親王は、出家することで、流罪を免れましたが、頼長の子息達を始め、乱に関わった公家の多くは流罪に処されました。   
 しかし、文臣である公家が、いずれも極刑を免れた一方で、実際に戦闘を行った武家には、断固とした処断が待ち受けていました。   
    
 近江へと逃れた源為義は、途中で病を得たこともあって逃亡を諦め、嫡男義朝の許に自首して出ます。   
 義朝は自身の武功をもって、父の助命を願い出たと言います。しかし、同じ頃、上皇方だった平忠正がやはり甥の清盛を頼って自首してきたのを、勅命により清盛自身がその処刑を行っており、それを引き合いに出されて、却って、為義の死刑執行を迫られることになります。   
    
 そもそも、この保元の乱より遡ることおよそ250年ほどの間に、死刑が執行された例はなく、既に死刑制度そのものが有名無実の刑罰と化していました。   
 それを復活させたのが、後白河天皇の側近信西であり、保元の乱の元となった崇徳上皇と頼長謀反の噂も、実は、この信西が立てた筋書きによる謀略との説もあります。   
 一度は天皇の位にあった人物を流罪にしたり、タブーとされてきた死刑をあえて行うなど、当時の常識からして、あまりに厳し過ぎる処分の数々を鑑みると、これもあながちあり得ない話でもなさそうです。   
    
 最終的に、義朝は父為義のみならず、為朝を除く四人の弟も処刑し(三男頼賢は戦場での傷がもとで既に死亡していた)、さらには、異腹の幼い弟達までも手に掛けることになります。   
 なお、合戦における見事な戦いぶりが鮮烈だった為朝だけは、その武勇を惜しまれてか、死一等を減じられ、伊豆大島への遠流に留められています。   
    
 こうして、肉親の悉くを手に掛けざるを得なかった義朝は、自らの手に入れた勲功では補え切れないほどの大きな痛手を負うことになりました。   
 そう、次なる争乱の火種は、この時、既に芽生えていたのです。   
    
  2003.7.1up
   
  ☆参考文献
 『保元の乱・平治の乱』(河内祥輔著:吉川弘文館)
 『兵範記』(平信範著:史料大成 18−22:臨川書店)
 『愚管抄』(慈円著:日本古典文学大系:岩波書店)
   
 
   
 
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