平治の乱前夜 〜対立の構図〜
 
   
   後白河上皇の寵愛を受けて、一足飛びに公卿の座をゲット。大納言も目前、末は大臣にまで昇り詰めようかという破竹の勢いだった信頼。
 ところが、摂関家と縁戚になった頃から、急に昇進が滞り始めます。
 
“出る杭は打たれる”
 身分や家柄が全ての貴族社会にあって、信頼の快進撃には、多くの公卿が眉をひそめたことでしょう。
 これまで、せいぜい上皇の取り巻きの一人と、その存在すら気にしていなかった人間が、いつのまにか、大きな顔をして、朝議の場にも現れるようになったとあれば、誰もがプライドの塊のようなものですから、そりゃあ面白いわけがありません。
 信頼ごときの若造を、このままのさばらせておいては、摂関家という大親分に衰えが見え始めている今、自分達の存在意義すら否定されかねないと、大いに危機感を持ったことでしょう。
 そして、そうした公卿諸侯の胸中を代弁するかのように、さらなる信頼の出世に待ったをかけたのが信西でした。
 
 武官の花形ポストである近衛大将になりたいと、例によって、猫なで声で信頼におねだりされて、「よしよし」と安請け合いした後白河上皇。
 ところが、これを信西に打診した所、猛反対に遭い、結局阻止されてしまいます。
 信西も身分低く生まれついたために、出世ができなかったという点では信頼と似たような境遇ながら、信西の場合は既に出家していたこともあって、元より、高位高官など望める立場ではありませんでした。
 勿論、子息達の将来には期待していたでしょうが、むしろ名より実を取り、政界の黒幕として君臨することが、信西の野望だったように思われます。
 実際、摂関家が求心力を失い、全体的に小粒化した公家社会は、信西の力量からすれば、自在に操ることも容易いことだったでしょうし、貴族諸氏の立場から見ても、為政者としての資質に不安を拭い去れない後白河上皇に、信西という優秀な補佐役がついていることは、少なからず安心感を与えることにもなっていました。
 
 しかし、出世話をフイにされた信頼にしてみれば、やはり、面白いはずがありません。当然恨みに思ったことでしょう。
 「信西さえいなければ
……
 同じことを思う人間が、もう一人
――
 面目を潰された形の後白河上皇もまた、信西の存在を目の上のこぶのように感じ始めていました。
 もしかすると二人して、散々に、信西の悪口を言い合っていたかもしれません。
 その中で、つい話が盛り上がり過ぎて
……、『信西抹殺計画』なんてものが出るのも、まあご愛嬌でしょう。
 
 軽い気持ちから出た一言。それも冗談と聞き流しておけば、笑い話で済んだものを、真に受けた信頼は、やがて、真剣に策を練り出します。
 先年の保元の乱の記憶も新しく、「武力の動員が肝要」といっぱしの策士気分で、提携先をリストアップ。
 この当時の武家の両雄は、平清盛と源義朝です。
 信頼は、摂関家との縁組にとどまらず、息子の信親
(のぶちか)を清盛の娘に婿入りさせていましたから、まずは清盛を味方につけようと考えます。
 しかし、困ったことに、清盛は信西とも縁戚関係を結んでいて、どうも両者は親密な様子。また、出世も順調の清盛が、そう簡単に誘いにのってくるとも思えず、逆に、下手に話を持ちかけて、信西に通報されでもしたら、それこそ計画はジ・エンド。
 
 ならばと、今度は矛先を義朝へ向けることに。
 好都合なことに、義朝は信西に対して、あまり良い感情を持っていませんでした。
 それと言うのも、義朝が、自分の娘と信西の息子 是憲
(これのり)の縁組を申し入れた所、「公家育ちの倅には武門の婿は務まらない」と、信西にあっさり断られていました。
 と言っても、これだけなら、義朝も仕方がないと諦める所でした。
 ところが、自分の娘との縁談話を断った、その舌の根も乾かないうちに、信西のもう一人の息子 成憲
(なりのり?しげのり?)は、清盛の娘婿になったいうのですから、地団駄踏んで悔しがる義朝の図は、容易に想像のつく所です。
 おまけに、保元の乱の折には、先頭に立って戦いを指揮し、図らずも父や弟達まで手にかけたというのに、乱後の恩賞では、清盛に大きく溝を空けられていましたから、あるいは「これも信西の企みか!」と不信感の塊となっていたとも言えます。
 こんな情緒不安定な時期に、「成功の暁には恩賞は望みのままに」と信頼に囁かれれば、簡単に話しに乗ってしまう気持ち
……、それもわからなくはありません。
 起死回生の好機、「目にもの見せてやる!」と息巻いたことでしょう。
 
 かくして、義朝率いる源氏の加勢を得て、ヴァーチャル『信西抹殺計画!』は、いよいよ現実のものとして、動き出したのでした。
    
  2003.8.4up
   
 
   
 
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